(回想)万引き事件(4)

2009年4月28日

Aが運び込まれ、私たち夫婦が救急車に付いて行った病院は
今まで行ったこともないような大きな総合病院でした。
実は、警察署の前で救急車は随分と長いこと停車していました。
よく医療ドラマで見る医者がいなくて患者の引き受け先がない状態だったようです。
これが事故だったり病気だったりしたら、私も半狂乱になって
「まだ病院は決まらないのか」とか「Aを助けて!」とか
叫んでいたのかも知れません。
しかし、私は冷静でした。
冷静・・・と言うよりも、もう目の前の事が現実の事とは思えませんでした。
私たち夫婦は他人事を見るように警察署のロビーで、停車する救急車を
ボーっと見ていたと思います。
恐ろしいことだとは思いますが、もしかしたら、私の中に
Aが死んでしまっても構わないと言う気持ちがあったのかも知れません。
生き続けていたら、この先、本当に何をしでかすか解らない息子。
万引きは、たぶん、これ一回では済まないでしょう。
今まで見つからなかっただけで近所などでもやっていたかも知れません。
この先、Aがやるかもしれない犯罪・・・
万引き、すり、空き巣、もしかしたら金銭狙いの強盗、殺人・・・
そんな事を考えたら、とても生きていて欲しいとは思えませんでした。
30分近くも停車して、やっと引受先が決まったようで、救急車は出発しました。
頭を打ったと言うことで、CTなども撮ったらしく・・・
検査は時間が掛かる物でした。
土曜日の夕方に運び込まれたので、外来は終わっていて、
私たちは時間外診療を待つ患者さんと一緒に長く長く待たされました。
病院に着いたら意識は戻ったと言う事で、時々廊下で看護師さんに連れられた
Aの姿を見かけました。
どこから見ても真面目な青年・・・の見かけです。
この待合室にいる人の誰が、これが窃盗の取調中に意識を無くして運ばれた男だと思うでしょうか。
検査が終わるまでに2時間は掛かったと思います。
結果は「全く異常なし」。
倒れたのは強いショックのせいだろう、と言う医師のお話でした。
CTの結果も異常はないそうで・・・
つまり、脳に何か欠陥があるわけでもないらしいです。
Aは、普通の頭で、こんな犯罪を続けている。
脳に欠陥がある、と言われた方が、どれだけ気が楽だったか解りません。
こんな事になるとは思わなかったので保険証など携帯していないし、
検査費は保険が効かなければ高額な物なので・・・
後日、保険証を持って支払いに来ると言う書類を書いて、
私たちはAを連れて病院を後にしました。
日は、もうすっかり暮れていました。
脱力感と怒りと悲しみと・・・
車の中で、私はしばらく口も利けないで座っていました。
1日の中で起きた初体験の出来事が多すぎます。大きすぎます。
この子に何を言ったら、この先まともに生きていってくれるのか。
どうしたら良いのか考えられませんでした。
※この記事は2010年7月に書いた回想記事です。
回想部分は過去の日付でUPしています。