(回想)万引き事件(3)
取り調べの部屋に入ると、
「あ、お母さんが来た、お母さんが来た」
と刑事さんが待ちかねていたように中に私たちを招き入れます。
中で刑事さんたちの「おい!」「おい!」と言う声が聞こえました。
Aはパイプ椅子に座らされていましたが、その座り方は異常でした。
ダランと手を下に垂らし、首だけが仰向けに真上を向いていました。
目は半開きの状態で、睫毛がビクビクと震えています。
「さっき、急に椅子から意識を無くしたように崩れ落ちて
床に倒れたんです。」
と刑事さんが仰いました。
私は「A、A!起きなさい!」と頬を叩きながら呼びかけました。
しかし、Aの身体はぴくりとも動きません。
ただ瞼だけがピクピクと動いているだけです。
「椅子から落ちた時に頭を打ったみたいなので、救急車を呼びました」
と、刑事さんも困惑しているようでした。
何度もAの名前を呼びながら、私はだんだんと可笑しくなってきました。
これは、芝居に違いない・・・
その時、私はそう思っていました。
芝居じゃないとすれば、何と気の小さい男なんだろう。
「どうして、こんな事に・・・?」
「いや、さっき、お母さんを呼んだよと言ったら急に倒れてこうなったんです。」
ああ・・・
そうだろうよ。
この子にとっては、たぶん、何よりも私に知れるのが恐かった事でしょう。
店の人に怒られるよりも、警察に補導されるよりも、
たぶん私に知られる事が一番の恐怖だったに違いない。
その恐怖心で耐えられなくなって気絶したのか・・・
机の上にはカードが山積みになっていました。
子供がよく集めているポケモンや遊戯王のカードのような・・・
あれのもっと「オタク系」な感じのカード。
「盗んだものってこれですか?」
この手のカードは中が見えないように袋に入っているものですが、
Aは、これを盗んでは物陰に隠れて袋を開け、袋を捨てると言う行為を
短時間に何度も繰り返していたようです。
たぶん、一つ盗んではバレていない事を確認し、また盗んでは
陰で開けて・・・
その様子は、ビデオ映像を見せてもらわなくても
目に見えるようでした。
家で私たちの財布から金を抜いた事がバレた時のような
あんな挙動不審な態度に違いない。
しかも、こんなカードなんか・・・
一袋いくらなのかは解りませんが、盗んだ総額は五千円ほどになるそうです。
やっている事が異常です。
この子は頭がおかしいのかも知れない。
私は本気でそう思いました。
やがて救急車が来て、Aは警察署から運ばれていきました。
当然、その日の事情徴収は終わり。
後日、警察から連絡が来たら、また続きの取り調べをする
と言う事で、私たち夫婦は救急車を追って運ばれた病院に
付いていきました。
子供が警察に捕まって引き取りに行く。
子供が救急車で運ばれる。
私は、この日、人生初の体験を一度に2回も味わったのでした。
※この記事は2010年7月に書いた回想記事です。
回想部分はここから過去の日付でUPしていく予定です。
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